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【詩】牧の羊

 

【牧の羊】 2008/06/14

 

 

ある森の中に
ある勤勉な羊飼いのもつ
ある牧場があった。

 

百匹の羊たちはいつも
牧場の囲いの中で
急ぐことなく
争うことなく
憎むことなく
各自が各自の食べたいだけ
牧の草を食べていた。
羊飼いは羊を愛し
羊たちは羊飼いを愛していた。

 
その中の一匹の羊がある時言った。
「私はどうしてこの囲いの中にいないといけないのか。
どうしてこの囲いの中の草を食べないといけないのか。
草は森の中にもたくさんある。
私は自由だ」

 

羊はある時、牧の外に出ようとした。
すると羊飼いが止めて言った。
「出て行ってはいけない。私の愛する牧場にいなさい」

 

また羊は羊飼いのいないとき、牧の外に出ようとした。
すると羊飼いの牧羊犬が止めて言った。
「出て行ってはいけない。
外に出て行っても、あなたの欲しがっているものはないでしょうから」

 

また羊は羊飼いも牧羊犬もいないとき、牧の外に出ようとした。
すると他の羊たちが止めて言った。
「出て行ってはいけない。
あなたが出て行ったら、私たちが悲しむから」

 

それでも羊はみなが寝静まる夜中
囲いを越えて
牧を出た。

 
「私は自由だ!」と羊は言った。
もう囲いなど気にしないで、どこへでも行ける。
もう白い毛を汚して叱られる心配もしないで、存分に泥遊びもできる。
羊は大喜びではしゃぎまわり
森の中を駆け回った。

 

 

羊は一度食べてみたかった、森の草を食べてみた。
「思っていたよりもおいしくない。なぜだろう?」

 
また羊は泥の中を転がってみた。
すると次の日、体中が痛かった。
「思っていたよりも楽しくない。なぜだろう?」

 
痛くて思うように動かない体を引きずって数日を過ごすと、
周りに草がなくなってきた。
他の場所に移ろうと思っても、
体が痛くて動けない。
「思っていたよりも全然自由じゃない。なぜだろう?」

 

羊がそう呟いた時、
草陰に隠れていた狼は
弱まって動けない羊に襲い掛かり
まばたきをする間にのどを
かき裂いた

 

 

羊は知らなかった
牧場の草は毎日、羊飼いが丹念に世話していたことを
泥遊びをしてはいけないと言ったのは、
病気になるといけないからだということを

 

 

 

 

ある森の中に
ある勤勉な羊飼いのもつ
ある牧場があった

 

九十九匹の羊たちは今も
牧場の囲いの中で
急ぐことなく
争うことなく
憎むことなく
暮らしている

 
ただ一人
悲しみに暮れる
羊飼いのほかは

 

 

 

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (1件)

  • 真の自由は与えられているけど、自分の考えの次元が上がらなければ自由であることに気づけないのですね。
    詩を読んで自由と思えていない考えをなくして、いつも自由を与えてくださっている神様に感謝を捧げていこうと思いました。

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